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世界でいちばん売れたDVD-Audio [The Beatles]

ふと考えたのですが、世界でいちばん売れたDVD-Audioはなんだろうなぁ?と。ちょっと考えれば、思いつくのはThe Beatles『LOVE』これ以外はないと思われます。6月にはそのドキュメンタリーDVDが発売されますので、またちょっと話題になるでしょう。
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部外者がディスクの販売枚数を知ることは不可能で、ニュースとして発表されない限りデータを得ることができません。唯一、RIAA(アメリカレコード産業協会)が発表する、ゴールド/プラチナレコードの認定が公式データとして認知できるものだと思います。
さて『LOVE』はアメリカでどれくらい売れたのか...RIAAのデータベースを調べると、2006年12月の段階でプラチナ止まりで、つまりアメリカでは100万枚は超えたが200万枚には届いていないということになります。意外に少ないですねぇ。その後の1年でもう少しは売れたと思いますが。これはCD1枚ものとDVD-Audio付きの2枚組の合算でしょうからDVD-Audioは半分以下、多くとも50万枚程度でしょうか。全世界で100万枚位???
日本でのDVD-Audioの枚数も分かりませんが、2〜3万枚は売れたのではないでしょうか。どの数字も根拠はありません。

売り上げ枚数が気になりますが、問題は、実際にDVD-Audioを聴いた方が何万人いるのか?です。
日本発売の直前には東芝EMI(当時)が5.1ch試聴会も行ったので、少なくともそこで5.1chを聴いた多くの方々はどのような感想を持たれたのでしょうか。そして自宅でも5.1chを聴きたい!と思われたのでしょうか。
発売後2〜3ヶ月はDVD-Audioも話題になったものの件数は多くありませんでしたし、パタッと露出はなくなりました。遅れて発売されたアナログLPの方がそれ以上の話題を集めた印象があります。

『LOVE』のDVD-Audio、私としては5.1chの起爆剤になると大きな期待を寄せていました。DVD-Audioのメリットである「映像」は含まれなかったのに、SACDではなくDVD-Audioを敢えて選択したのは、DVD 5.1chの普及率を考慮したからだと考えます。つまり、より多くの人に5.1chを聴いてもらえるよう、いちばん普及しているフォーマットを選択したのだと思います。

制作の経緯から推測すると、最初の形は実際に公演会場で使っていたサラウンドのマルチトラック素材であり、それを5.1chまで落としてまとめ上げ、さらにCDでも聴けるように2chまで落とした、というのが自然です。オリジナル主義にこだわるのであれば『LOVE』は5.1chで聴かなければいけないのです。

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サラウンド・スコープでモニターした『LOVE』
 上90°がフロント、下90°がリア成分。モノだと12時方向のみで、2chだと上90°の範囲のみに表示されます。
左右の各90°部分に表示される成分が多いほど360°に広がる効果が高いものになります。



5.1chの内容は、文句の付けようが無い歴史に残る大傑作です。(『Anthology』の5.1chも甲乙付けがたい完成度です。)アーティストの知名度、実力、楽曲の完成度は世界が認める絶対無敵のものですから、これ以上の5.1chが出ることは考えられないくらい決定的なものなのです。しかし、発売から1年半近くが過ぎ、グラミーのベスト・サラウンドを受賞して、それでもDVD-Audioが認知されない訳ですから万策尽きたというしかありません。理由はただ一つ、5.1chを聴くことができる環境が全然普及していないことに尽きます。日本だけではなく、世界的にも一般家庭でリア・スピーカーを置くことは非常に難しい、ということです。映画のサラウンドであれば、バーチャルモードでフロントだけでも雰囲気は「何となく」感じるんですが、音楽5.1chはしっかりとリアの定位を出さなければいけないという条件がより環境を厳しくしてしまっています。「4チャンネル時代」と全く同じ状況なのです。この悔しさはどこにぶつければ良いものやら...。

誰もが知っていて、誰もが愛するThe Beatlesですから新作に様々な評価がでるのは当然のことです。否定的な意見の多くは、作品の改変に集中し、オリジナルの楽曲、構成を変えていることに多くの批判が出ました。メドレーで曲をつなぎ直すのが『LOVE』のテーマなのですから、原曲のままのつなぎ直しでは当たり前過ぎてより評価を下げたことでしょう。5.1chで聴けばすぐ理解できることなのですが、このミックスはあくまでも原曲のエッセンスは崩さないでフロントにしっかり置き、他の曲のパーツはサラウンド部分にちりばめる、という方針がほぼ貫かれています。試しにリアをオフにして聴けば遊びのパーツの多くがリアに含まれていることが簡単に分かります。曲の変わり目もフロントとサラウンド部を行き来しながらつないでいます。この様な使い分けが行われているものの、リアの成分が全部フロントに混ぜられてしまっては、意図したサウンドデザインが殺されてしまい、複数の曲が一色単になって聴こえてくることになります。Martin親子が意図したのは、単純な曲の改変や再構成ではなく、できるだけ多くの曲を取り上げ、複数の曲を同時に聴かせながら新しいイメージをサウンドとして創造することなのです。
音質の変化も賛否両論ですが、Giles Martinの徹底した作業で分離された個々の音源は、その輪郭と迫力が生まれ変わり、デジタル時代の音として最適なものにまとめられています。『LOVE』はオリジナルではないのですから、オリジナルを好む方は自分の好みのソースを聴くことが最適であり、その好みを『LOVE』に求めて批判するのは無理があります。ちょっと話がそれますが、アナログとデジタルを比較するのはナンセンスで、技術的に違うものを比較しても良し悪しの結論は出るはずは無く、好き嫌いでしか結論は出せないのではないでしょうか。それぞれに一長一短がありますから。

最初のソロバージョンを使った「While My Guitar Gently Weeps」は評価が分かれました。George Martinが新たに加えたストリングスに批判の声が多かったようです。このオリジナルはなかなかアレンジが決まらず、完成までに何度もやり直しをしています。George Mはこのセッションにはほとんど(まったく?)立ち会っておらず、もしGeorge Hからアレンジを相談されていたらこうしたよ、という40年後の答えを出しているような気がします。George Hの弾き語りをフロントセンターに置き、やさしくストリングスが包み込み、あくまでもオリジナルを大切に扱っている配慮が嬉しいのです。

「All You Need Is Love」は『LOVE』の中ではほぼ原曲の構成を保っているいるものです。この曲の2chミックスは非常に不自然であることは周知の通りでしたが、今回のサラウンドミックスは完璧で自然なミックスになっています。George Mはやっと満足できるミックスを完成させることができたのだと思います。新しい2chも悪くはないですが、5.1chは「Our World」の中継スタジオの雰囲気を再現するかのような配置と華やかさを演出しています。
(「All You Need Is Love」はDVD「Yellow Submarine(1999)」の中でPeter Cobinの手により既にほぼ同様の5.1chがミックスされています。)

iPodの登場で音楽を聴く環境が一層狭くなり、ヘッドフォンで聴くというスタイルが進行しています。同時に小型スピーカーの性能も向上し、音質自体は格段に良くなりましたから、大型スピーカーの意義は薄まる一方でよりマニアックな傾向を強めます。極分化がより明確に進んでいます。ハードの普及を高めるにはソフトの充実以外ありませんが、私一人が叫んだところで何も動かないことがもどかしいこと、この上もありません。

ただただ『LOVE』を5.1chで聴いて欲しい。5.1chを聴いた後でもう一度『LOVE』を評価して欲しい。そう願うばかりです。
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