「４チャンネル」とは、本当に音がいいのでしょうか？ [4チャンネル]
そもそも「４チャンネル」とは一体全体どのようなものなのでしょうか。
1970年代、正式には「４チャンネル・ステレオ」と呼ばれていた、従来の2chステレオにリアの2chを加えたアナログ方式のサラウンド再生システムとその音源ソフト（レコードとテープ）の総称です。読み方は「ふぉーちゃんねる」と読むのが当時の常識で「よんちゃんねる」と読むのは当時を知らない若い方が多いようです。日本テレビの別称などテレビチャンネルの「よんちゃんねる」とか「よんちゃん」という呼び方にも影響があると思います。
英語では「Quadraphonic」略して「Quadra」とか「Quad」という、ラテン語が語源の「４」が使われていました。読み方（英語を日本語に表記するのは難しいですが）はそれぞれ「くぉどらふぉにっく」「くぉどら」「くぉど」あるいは「くぉーど」と読みます。オーディオメーカにQuadという会社があり「クォード」という日本表記で知られています。Appleコンピューターが「Quadra」という機種を日本語表記「クァドラ」で発売した影響なのか「クァドラ」と読む方も少なくありません。いずれにせよ「クァドラ」も「ふぉーちゃんねる」も英語では通じません(笑)。
「４チャンネル（以下、4ch）」の方式には、レコードでは「CD-4」「SQ」「QS」「RM」などの変換方式、オープンリールテープ（6mm）を使った「Q4（4トラック・4ch）」、8トラックテープの「Q8（8トラック・4ch）」などがあります。
CD-4：日本ビクターが開発した4ch完全分離の変調方式。
日本ではビクター系列、キング、アメリカではRCA、WEA系列、A&Mなどが採用
RM：4chを2chにミックスして符号化した一般的なマトリクス方式。日本では東芝などが採用。
QS：山水が開発したマトリクス方式。日本では東芝、Audio Labなどが採用
SQ：ソニーとCBSが共同開発したマトリクス方式。CBS系列、他にイギリスEMI系列、
アメリカCTI、A&Mなどが採用。
Q4、Q8：レコードとは販売経路の違いもあり、各社から発売
Q8は自動車用8トラのブームもあり、アメリカでは多くのソフトが発売されました。4chの再現度はテープの方が圧倒的に優位であり、家庭内に4chシステムを設置するよりも自動車内の方が簡単だったこともQ8の普及に大きな影響があったと推測されます。
いちばん音がいいのは、テープスピードに毎秒19cm（7.5inch）を採用したオープンリールのQ4です。使い勝手の悪さを我慢すれば、完璧に4chに分離されスクラッチノイズのない4chを聞くことができます。
アメリカCapitolはQ8だけの発売で、初期の例外を除き4chレコードは発売しませんでした。
イギリスDeccaおよびアメリカLondon系列も4chレコードは発売せず、Q4とQ8のみの発売でした。この２つの系列はレコードの方式選択の結論が出せなかったと思われます。
Polygram系列は4chに関心が薄く、一部Q8を発売したものの、日本のみビクターが熱心にCD-4で発売したので、日本発売のみのソフトがたくさんあります。
ソフト発売のピークは1974〜75年だったのですが、方式の多さが混乱を生み、統一もできない状態では普及にはほど遠く、正当な評価を得られないまま消滅してしまったのが現実です。ブームを引っ張るような作品にも恵まれませんでした。Pink Floyd「狂気」は日本でも発売されたすばらしい4chだったのですが、実際に聞いたことがある方は非常に少ないようです。Eagles「呪われた夜」もCD-4とQ8でアメリカでは発売されましたが、日本では発売もされず、後の祭りでした。
前置きが長くなりましたが、最近のアナログレコードの音質が再評価され、いつの頃からか「4chレコード」が「高音質」として注目を集めるようになりました。「4ch」の実態を知る私としては、確かに「4chレコード」を2chで聞くと、ミックスが異なるレコードが多くあることは認めますし、その価値も理解できます。しかし、「高音質」という評価には非常に疑問を感じる訳です。「4chレコード」を「４チャンネル」で忠実に再生すれば、2chでは聞くことができない「音質」があり、2chより「高音質」と感じるレコードもたくさん存在します。しかし、あくまでも4chシステムで再生した場合に限られるのです。
「4chは高音質」という評価の一つの根拠は、方式の一つである「CD-4方式」の仕様を誤って解釈しているからではないか、と私は推測しています。
CD-4レコードには20Hzから40,000Hzまでの周波数が記録されているため、通常のレコードに較べおよそ２倍、しかもより高い周波数を記録しているのです。この「高周波数成分」を高音質と解釈されているのではないのでしょうか。詳しい技術的な説明は避けますが、この「20,000Hz〜40,000Hz」にあたる高周波数は「音」ではなく、2chを4chに変換するための「信号」に過ぎないのです。決して「40,000Hzの音」が記録されているのではないのです。CD-4の「音」としての周波数帯域は「20Hz〜20,000Hz」で、完全に20,000Hzでカットされ、実際には15,000Hz以下というのが一般的であり、場合によっては2chよりも狭いともいえるくらいです。
CD-4レコードには20Hzから40,000Hzまでの周波数が記録されているため、その溝は2chより狭く、使用するカートリッジはCD-4専用であり、針も「シバタ針」という2chより細い特殊なものを使用しなければなりません。従って、CD-4レコードを通常の2ch針でトレースすると溝を傷めてしまうのです。CD-4レコードは今となっては中古でしか入手できない訳ですが、見た目が瑕もなくMintクラスでも実際に4chでトレースするとノイズだらけ、というのが多いこと多いこと、何度泣かされたか数え切れません。ご自身で聞かれるのはもちろん自由ですが、2chの太い針でトレースした貴重なCD-4レコードを中古レコード店に売却したりオークションには出さないでください。数少ない私のような4ch愛好家のために、よろしくお願いします。
CD-4以外の「SQ」「QS」などのレコードは元々2chの針でトレースして再生するものですから、全く問題ありません。ご安心ください。そこで、2chで再生したら2chより音質がいい4chレコードはほんとうにあるのかですが、私の場合、4chレコードをわざわざ2chで聞く、という行為がないので特定できていないのです。2chレコードをわざわざモノに変換して聞くことがないように...。時間の無駄でもあります。音質追求のために4chを手に入れている訳ではありませんし。もちろん過去に2chモードに切換えて聞いたこともありましたが、少なくともこれまでに「音がいい」と感じたことはありません。逆に「おかしいなぁ」と感じることの方が多いくらいです。時間的な余裕ができたら「2chで聞くと音がいい4chレコード」を探してみようとも思いますが、今のところ「4chレコードは2chで聞けば音がいい」と肯定する確証はないし、でも完全に否定することもできない訳です。
4chソフトの発売は1978年頃にほとんど終わってしまった訳ですが、実は4chミックスのままCDとして発売されたものも存在します。この「Mike Oldfield Boxed」はその代表的なもので、当時発売されたままSQ4chミックスでCD化されたもので、「Remixed in Quad」という表記がブックレットに残されています。
- アーティスト: Mike Oldfield, David Strange, David Bedford, David / Oldfield, Mike Bedford, Mike Oldfield, Robert Lucas Pearsall, Lawrence Wright, David Bedford
- 出版社/メーカー: Virgin
- 発売日: 2002/12/10
- メディア: CD
Mike Oldfieldは非常に4chに積極的で、このボックスの３作品だけではなくライブ「Exposed」は2chミックスではなくSQ4chミックスのみを採用しました。これは1979年発売で、「史上最後のアナログ4ch作品」として知られています。LPをお持ちの方は裏ジャケットの右上に「An SQ Quadraphinic recording, stereo compartible」という記述を読むことができます。未確認ですが、このCDもSQ4chミックスのままCD化されているのではないかと思われます。
- アーティスト: Mike Oldfield
- 出版社/メーカー: Virgin
- 発売日: 2000/05/29
- メディア: CD
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by fgasd (2009-12-04 17:36)